リキッド消費

兆候をつかむ

一時期大変な人気を博したドラッカー(Peter Drucker)だが、最近は評価が低いらしい。もちろん私もドラッカーの著作を経営学だとは思わないが、そこに示唆深い指摘をみることはある。たとえば彼の有名な考え方に「すでに生じた将来を予測する」(anticipation of a future that has already happened, Drucker, 1964, p. 163)というものがある。これは大きな出来事(major event)とその十分な影響(full impact)の間にはタイムラグがあるので、将来生じる変化(change)はある程度まで見越すことができるという考え方である(Drucker 1964. p. 163)。目に見える影響が生じる前に兆候をつかむことで、未来はある程度予測できるというわけだ。

彼はこうした努力をすることで、動向(trend)ではなく変化(change)を見越すことができると述べている。ある様式(pattern)の中における変化ではなく、様式そのものが壊れていく(break)ことを推測できるという主張である。

リキッド消費という現象には、この「すでに生じた将来を予測する」という考え方がうまくあてはまる。リキッド消費という現象は、すでに着実に生じているが、まだほとんどの人が気づいていない。しかしそれは、これからのマーケティング活動に少なからぬ影響を及ぼすものだと考えられる。


リキッド消費について学ぶ

消費環境の変化とリキッド消費の広がり: デジタル社会におけるブランド戦略にむけた基盤的検討

『マーケティングジャーナル』第87巻 第3号 所収

タイトル通り、消費環境の変化とリキッド消費について論じたものである。本ページに記した内容がより詳細に議論されているほか、現代社会におけるリキッド化の浸透についてデータを用いた簡易的な分析も行われている。

  • J-STAGE 

デジタル社会におけるブランド戦略: リキッド消費に基づく提案

『マーケティングジャーナル』第87巻 第3号 所収

リキッド消費をブランド消費行動の観点から再検討したうえで,消費環境のリキッド化に対応したマーケティング戦略(特にブランド戦略)のあり方について検討したものである。なおこの論文は、上で紹介した「消費環境の変化とリキッド消費の広がり」の続編と位置づけられ、リキッド消費が台頭する中で,企業や組織のブランド戦略はどのような方向を目指すべきかについて俯瞰的に検討が行われている。

  • J-STAGE 

リキッド消費と手続きの容易さ

『流通情報』第51巻 第6号 所収

リキッド消費概念と、そこにおける企業や組織のマーケティング戦略について、ごく簡単に説明したものである。

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  • CiNii 

所有を前提としないアクセス・ベースの消費行動:「リキッド消費」に今、注目すべき理由

『宣伝会議』第493号(2020年5月号) 所収

消費スタイルの大きな変化とリキッド消費概念について、簡単に説明したものである。

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References

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