ブランド・リレーションシップ

2つの落とし穴

ブランド・リレーションシップは、とてもおもしろい現象であり、また実務的にも今後ますます重要性を増していくだろう。しかしブランド・リレーションシップについて検討するときに気をつけなくてはならないことが2つある。

第1の注意点

1つめは「これまでのブランド論はもう古い」といった考えにとらわれることである。新しい概念や理論が提示されると「時代は変わった」という人がいる。しかしほとんどの概念や理論は、それまでの概念や理論のうえに展開されるものである。ブランド・リレーションシップも例外ではなく、伝統的なブランド論を基礎としている。

伝統的なブランド論では「ブランド認知」(あるいはブランド・セイリエンス)と「ブランド・イメージ」が重視される。ブランド認知とは、さまざまな条件下において、あるブランドを識別できることである。要するに「それが何であるか」が分かることだ。お店でコカ・コーラをみて「これは炭酸飲料だな」と分かれば、ブランド認知が確立していることになる。

ブランド・イメージとは、ブランドについての、さまざまな連想の集まりことである。コカ・コーラときいて「さわやか」「赤と白」「アメリカ」「おいしい」「大好き」といったことが思い浮かべば、それがブランド・イメージである。ブランド・イメージを形成する連想には「赤と白」「アメリカ」といった評価を含まないものもあるし、「さわやか」「おいしい」「大好き」といった評価を含むものもある。

ブランド・ピラミッド

ブランド認知とブランド・イメージは階層関係にある。図に示したように、ブランド認知が基盤となり、ブランド・イメージが形成される。ブランド認知を飛び越して、ブランド・イメージが形成されることはない。私たちは知らないものに対して印象を抱くことはないからである。ブランド・リレーションシップは、さらに上の第4段階にある。このことは好きでも嫌いでもないブランドに、絆や愛着を形成するとは考えにくいことからも理解できるだろう。

図から分かるように、伝統的なブランド・マネジメントは、第1段階〜第3段階に焦点を合わせてきた。これに対してブランド・リレーションシップは第4段階に存在する。つまりこれまでのブランド・マネジメントは、まったく間違っていないのである。ただ少しだけ足りない部分があったのだ。

ブランド・リレーションシップとブランド・イメージ

ブランド・リレーションシップといっても、消費者とブランドのあいだに物理的な結びつきが存在するわけではない。ブランドとの絆は、あくまでもメタファー(隠喩)である。するとブランド・リレーションシップも、結局のところはブランドについてのイメージのように思えてくる。

この疑問は的を射たものだ。ブランド・リレーションシップも、ブランド・イメージの一種である。より正確には、ブランド・リレーションシップの実態は「ブランドと自分の結びつきのイメージ」といえる。これに対して第2段階と第3段階は、ブランドそのものイメージであり「ブランド自体のイメージ」といえる。

ブランド・リレーションシップは消費者が抱くブランドについての印象であるのだが、すでに論じてきたように、第2段階と第3段階とは性格を異にする部分が多い。そこでブランド論では、第2段階と第3段階を「ブランド・イメージ」、第4段階を「ブランド・リレーションシップ」と区別してよんでいる。

第2の注意点

2つめの注意点は、もうお分かりになったかもしれない。それは、ブランド認知やブランド・イメージを飛び越して、いきなりブランド・リレーションシップを形成しようと試みても徒労に終わりかねないということである。すでに説明したように、ブランド・リレーションシップの形成にはブランド認知、そしてブランドについての肯定的イメージが必要となる。

ときには「ひと目惚れ」のようにして、きわめて短い時間にブランド・リレーションシップが形成されることもあるだろう。しかしこの場合も、ブランド認知とブランド自体についての肯定的イメージが(短期間の間に)形成されているはずである。

ブランド・リレーションシップの形成にはブランド認知と、ブランド(そのもの)についての肯定的イメージが必要となる。そしてこれは、ブランド・リレーションシップが「強いブランドをより強くするもの」であることを意味している。ブランド・リレーションシップは究極のロイヤルティを生み出すものである。