ブランド・リレーションシップ

強い競争力を誇る企業やブランドは、確固とした顧客基盤のうえに成り立っている。それでは強い顧客基盤を手に入れるにはどうしたらよいか。マーケティングの世界では、これまでさまざまな主張がなされてきた。

もっとも基本的な方法は、顧客の満足度を高めることである。満足した顧客はまた買ってくれるという考えは、とても分かりやすい。マーケティング・リサーチの領域では、顧客満足度でなく、顧客維持率(リピート率)を測定することもよくある。顧客満足は心理状態なのでアンケート調査をしないと分からないが、リピート率は行動なので購買履歴データなどから計算することができる。

顧客維持率を高めるために満足度を高めるのではなく、顧客を囲い込もうという発想もある。ポイントカード制度や、入会金制度、あるいはかつて存在した携帯電話の2年間契約制度など、離反することで損をする仕組みをつくり、顧客をつなぎとめようというわけである。

顧客満足と顧客の囲い込みは、どちらも顧客維持率を高めるが、そのメカニズムは大きく異なる。満足した顧客は「それを望む」ためにリピートするのに対して、囲い込まれた顧客は「そうせざるを得ない」ためにリピートする。英語でいえばwantとshouldの関係である。

ブランドとの心理的な結びつき

最近は、顧客満足の考え方をさらに発展させることが多くなってきた。多くの企業が満足だけでなく、消費者がブランドに対して抱く心理的な結びつきに注目するようになってきたのである。たとえば東京ディズニーリゾートには熱心なファンがたくさんいる。自動車のスバルにも、自分たちのことを「スバリスト」とよぶファンがいる。さらにスノーピークやアシックスといったブランドにも、熱心なファンがいるようである。これらのブランドのファンは驚くほど強いロイヤルティをみせる。

ブランドのファンは愛するブランドを自己の延長のように思っている。ブランドとの間に心理的な絆を感じているからだ。このようなブランドとの結びつきの感覚を「ブランド・リレーションシップ」という。ブランド・リレーションシップとは、消費者が特定のブランドとの間に抱く心理的な結びつきであり、そのブランドに関する意思決定や行動に肯定的な影響を及ぼすものである。

ブランド・リレーションシップについて研究が進むにつれ、消費者がブランドを愛するのは、単に製品やサービスのクオリティが高いからだけでないことが明らかになってきた。製品やサービスに満足するだけでは、ブランドへの愛着は深まらないのである。ブランド・リレーションシップは顧客満足を超えた次元に存在する。