関係の魅力を高める

どうしたら接近的な動機づけを高め、関係の質を向上させられるのでしょう。この問題を解くには、顧客はどうして自社との関係に魅力を感じるのかについて考えるべきです。

関係の魅力

顧客が自社との関係に魅力を感じてくれる理由は色々です。しかし大きく分けると3つの理由があるように思えます。

  • 状況に応じて臨機応変に対処してくれるから。
  • ニーズや好みを熟知して、気の利いた対応をしてくれるから。
  • 営業担当や店員との間に、深い人間的な関係が醸成されているから。

それぞれについて考えてみましょう。

臨機応変な対処

契約社会といわれる欧米と比べ、日本社会は、取り決めがあいまいだといわれます。たしかにそういう一面もあるはずです。しかし、あいまいな取り決めは、決して悪いことばかりではありません。事前にすべてを決めないからこそ、状況に応じた臨機応変な対処が可能となります。あらかじめすべてを決めず、大枠だけをゆるやかに決める契約は「関係的契約」などといわれます。

関係的契約は、欧米の法律学者が、身の回りを見渡すと厳格な契約ばかりでないことに気づいて提示した概念です。あいまいな契約は欧米にも多いようです。

日本の自動車産業が世界的な強さを誇ることになった1つの理由は、サプライヤー(部品供給企業)とアッセンブラー(組み立て企業=自動車会社)とのあいだに、緩やかな契約が存在したからだといわれています。はじめからすべてを事細かに契約しないことで、製品の開発状況に応じて、仕様を柔軟に変化させることが可能になります。あるいは生産状況に応じて、供給量を調節することが可能になります。

ただし、このような臨機応変な対処は、いつでも大切というわけではありません。関係的契約は「はじめに細かな取り決めができないとき」にこそ有効性が高まります。つまり「不確実性」がある程度高いときです。不確実性とは予測の困難性をもたらすものをいいます。

顧客適応

ニーズや好みを熟知して気の利いた対応をしてくれることも、顧客にとって魅力です。誰でも、このような関係を大切にしたくなります。

顧客に合うように対応を変えることは「顧客適応」といわれます。顧客適応はさまざまなところで見られます。身近なところでは美容室があげられます。美容師は得意客をよく理解することで、好みにあうよう微妙に施術の内容を変えていきます。お酒やお料理の好きな方なら、行きつけのバーやレストランなどを思い浮かべてください。そのほか、かかりつけの医者、大学のゼミの先生なども、患者や学生に応じて対応を変化させています。

顧客適応は単なるご用聞きではありません。まず顧客のことをよく知り(顧客学習)、それによって対応を顧客に細かくあわせる(顧客適応)という2つの段階から構成されます。したがって顧客適応は、顧客自身がオプションを選択してカスタマイズするのとは少々異なります。

関係的契約にもとづく臨機応変な対処と同様に、顧客適応も常に大切なわけではありません。顧客適応が有効になるのは、顧客ごとにある程度好みが違う(ニーズの分散が大きい)場合です。たとえば水道水を顧客適応するのは、あまり有効でないはずです。

顧客適応は、関係的契約にもとづく臨機応変な対処と、どこか似ています。いずれもニーズに合わせて顧客への対応を変化させます。しかし両者は異なるものであることに注意が必要です。たとえば、アマゾンのレコメンド・システムはとても優秀だといわれます。これはITベースの顧客適応といえます。閲覧履歴や購買履歴などによって顧客のことをよく知り、それによって対応を細かくあわせているわけです。しかしアマゾンは、あいまいな契約によって、柔軟な対応をしているわけではありません。

心理的な結びつき

ここまでの説明で、なにか足りないと感じた人もいるかもしれません。営業担当者や店舗スタッフとの人間的な結びつきです。営業担当者や店舗スタッフとの間に親しみやフレンドシップが形成されることで、顧客にとって関係はより魅力的になります。

ビジネスの世界に友情のようなものを持ち込むのはおかしいと考える方も多いでしょう。しかしいくつもの研究や調査によって、ビジネス関係にもこのような側面が存在することが確認されてきました。私たちは自分たちでも気がつかないところで、人間的な心理に左右されているようです。

ただしこのような関係を、すべての顧客が望んでいるわけではありません。顧客の中にはビジネスライクな関係を好む人もいます。一般論として、どのようなセグメントをターゲットとしているかによって、フレンドシップの有効性は変わってきます。